その他のちょっと良いセリフ
ハンカチ渡してもいいですか?

「遙かなる山の呼び声」より
北海道・中標津の酪農地帯で、亡き夫が遺した農場を女手一つで営む未亡人・風見民子(倍賞千恵子)とそのまだ幼い一人息子・武志(吉岡秀隆)のもとで住み込み作業員として働く、素性を明かさぬ謎の男・田島耕作(高倉健)。
寝食だけ提供してもらえれば無給でもいいから働かせて欲しいという田島を渋々と雇い入れ、しばらくは警戒心を隠さなかった民子でしたが、息子の武志が田島に懐き、また田島も武志を可愛がっていることや、民子に一方的な思いを寄せる虻田(ハナ肇)が民子に乱暴しかけた際に田島が颯爽と勇躍し虻田を撃退したこと、その復讐にと虻田がゴロツキ三兄弟でやって来たのを軽く返り討ちにし、終いには逆に三兄弟に慕われるようになった田島に心を開き、その朴訥としながらも実直で温かみのある魅力に惹かれるようになっていました。
しかし、身辺に警察の捜査が迫ってきていたことを悟った田島は、民子たちのもとを去る決意をします。2年前、田島は借金苦で自殺した妻を葬式で罵った金融業者を殴り殺し、警察から逃げていたのでした。それを聞いた民子はショックを受けますが、すでに惚れていた田島に居て欲しいとすがりつきます。ですが、その甲斐なく、ついに警察に逮捕された田島は、立ちつくす民子と泣きながら追いかける武志の元から去って行くのです。
このセリフは、ラストシーン、刑が確定し列車で網走刑務所へ護送されている田島を駅で発見した民子が、田島の護送車両に乗り込み隣の席に座り、涙ながらにいつまでも出所を待つと伝えた際に、護送刑務官に言った言葉です。ハンカチの色は、黄色。『幸福の黄色いハンカチ』と同様に映画史に燦然と輝くこの圧巻のラストシーンで、自分(民子)の涙、田島の涙、刑務官の涙、そしてこの映画を観ている我々の涙をもまとめて拭いてくれるような、まるでそんな巨大な黄色いハンカチが存在するような錯覚さえ覚える、圧倒的な映画の力が漲る場面とセリフです。
会社というのはたくさんの歯車で成り立っている。その歯車をスムーズに噛み合わせるためには潤滑油が必要。この浜崎くんは潤滑油の役割を果たしているのではないかと思います。
何もかもさ。

「青春残酷物語」より
学費滞納で除籍寸前の不良大学生・清(川津祐介)は、同じく不良の女子高生・真琴(桑野みゆき)と運命的に出会う。自分の言う事に素直に従わない年下の真琴を、苛立ちを隠さず、サディスティックに、荒々しく抱いた清。粗暴に抱かれた直後、清に何に対して怒っているのか問うた真琴への、清の返答。刹那の衝動に突き動かされ無軌道に生きる、あらゆる現実や既成概念に牙を剥き、触れるものすべてを傷付けてしまう鋭利なナイフのような清を象徴するセリフ。そこには、青春特有のまだ幼い感情に根差した眩しさと瑞々しさがあふれ出ており、年と経験を重ね常識と分別を得た大人にとっては、懐かしく、羨ましく思えるかもしれない。しかし、若さは往々にして手痛い代償を支払うことになることを、二人は知ることになる…
人を愛することは 厳しいことなんだよ
それは戦いでさえある

「愛と誠」より
東京の財閥の娘・早乙女愛(早乙女愛)は、幼少時に蓼科の別荘でスキーをしている最中に危うく谷に転落する寸前、地元の不良少年・太賀誠(西城秀樹)に助けられるが、その時に彼の額には深く大きな傷が残った。
9年後、同じく蓼科で高校の部活合宿中に暴走族の襲撃に遭う愛を、偶然にも誠が再び助けるという運命的な再会を果たす二人だが、誠は警察に補導されてしまう。
愛は、過去と現在の二重の償いをすべく、父の権力で、誠を自分も通う名門・青葉台高校に転入させた。しかし、誠は手段を選ばぬ暴力で学園を支配し、その横暴は日増しに激化、誠を転入させた愛の立場も悪くなっていた。
そんな誠の常軌を逸した暴君っぷりが、かつて自分を救った際に負った傷に起因し、そのせいで誠の家族は離散、そんな運命への復讐として、無軌道な暴力人生を送っていると知った愛は、学園と親に内緒のアルバイトを始め、稼いだ金を誠に貢ぎ始めるが…。
このセリフは、愛へ一方的な恋心を寄せる同級生の岩清水弘(仲雅美)が、誠への贖罪に身を持ち崩しながらも暴走する愛を見かねて発した言葉。単に金を与え甘やかすことは共依存の負のサイクルが加速するだけで、愛のためにも誠のためにもならない、それは贖罪にもならないと諭す。
いくら引け目や負い目があるからといって、悪を悪だと諭せない不毛な関係の先には堕落しかない。映画の中ではそこまで描かれてはいませんが、自分が恋慕する相手でも道を逸れていれば甘い言葉を捨て厳しく諫めるこの岩清水弘という男は、なかなか見どころのある人物なのかもしれません。
自分の感情というものが、無いの?

「古都」より
京呉服問屋の一人娘として何不自由なく育てられた千重子(岩下志麻)は、両親から自分が本当の娘ではない(両親が自分の本当の親ではない)事を知らされていました。しかし、育ての親との仲は、千重子がその事実を知ったとて、変わらずに睦まじいものでした。それぐらいに親子の絆は太く強く、なにより、育ての両親は本当の子供ではない千重子を何不自由なく育てていたのでした。
その一方で、大学に進みたいという千重子の希望を、それなら家の商売を実地で身に着けるべしと却下。結婚についても、商家の独り娘なればこそ嫁に出すことはできない、と言います。そして、自分の人生の大きな選択に、ことごとく介入どころか初めから決めてしまっている親に対して、異を唱えずに従う千重子。それは、本当の子供ではないのに何不自由なく育ててくれた恩を感じているからなのでしょうか?それとも何かべつの理由があるのでしょうか?
このセリフは、そんな千重子を不思議がったのか、あるいは不憫に思ったのか、気の置けない友人でもあるボーイフレンドから発せられた、素朴な疑問でした。そして、どうやら千重子は、ただ単に恩人であるからと言って両親に穏健なる服従を誓っているだけではなく、そこにはやや複雑な思慮と心情が、一種の「ミステリアスな謎」としてありそうなのです。
名匠・田中登監督による、川端康成の原作小説を映画化し、米アカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたこの名作では、日本が世界に誇る古都・京都の歴史ある風光明媚な名所の数々を舞台に、その美しい四季折々を背景に、生き別れになった二人の姉妹の運命と心の機微を繊細に描きつつ、その「ミステリアスな謎」が紐解かれます。
君が必要か必要でないかは社長である私が決めることなんだ。君がどんなにダメな社員であったとしても、ひょっとして必要な場合があるかもしれないでしょう。
あの…そっちへ行っていい?

「旅の重さ」より
父親を知らない16歳の少女(高橋洋子)は、男にだらしがない絵描きの母親(岸田今日子)に辟易し、家出を決行、独り行くあてのない旅を始めます。しかし、旅の途上でさまざまな出会いや別れを経験しつつも、ついに栄養失調で行き倒れてしまいました。
そんな少女を拾って看病したのは、独り身の行商を営む朴訥とした木村(高橋悦史)という男でした。木村による看病の甲斐あって回復した少女は、看病してくれたことへの恩返しをすべく、木村の家に居付き、二人で暮し始めます。父親ほどに歳の離れた、無口で言葉少なく多くを語らない男の世話をして暮らす中で、つい木村に、知らずに育った父親の姿を夢想、父性への憧憬を投影してしまいます。
このセリフは、少女が、知らずに育った父性を、父の温もりを希求するあまり、隣りに敷いた布団で寝ている木村に、同じ布団で一緒に寝たいと、勇気を出して口にしてみた、ある種愛の告白にも似た言葉です。ちなみにもし筆者(中年男性)が言われたら、どう返答するか想像がつきませんが、少なくともドキドキゾクゾクするに違いありません。
そもそも母親の、母性よりもあまりに「女」の部分が強すぎる姿、それに翻弄される生活を嫌っての家出の旅、少女が父性を強く求めるのは当然の帰結でしょう。そして、そんな少女の懇願に男は戸惑い、困惑、狼狽するも、その一方で、今まさに少女から大人の女へと成長する過程の真っ只中にある、少女の肉体の眩しくも瑞々しい魅力に、やがて男が「異性」すなわち「女」を感じ始めるのも時間の問題でした。これも当然の帰結でしょう。
お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか?
“真実”と言うと聞こえがよすぎるかもしれませんが、
我々が求めているのは、それです。
10のうちひとつぐらいは真実かもしれません。
それを探し当てるのは、結構面白い作業ですよ。

「クリーピー 偽りの隣人」より
元警視庁捜査一課の刑事で庁内随一の犯罪心理学のエキスパートである高倉(西島秀俊)は、ある事件で自らの知識や経験を過信したがゆえに起こしてしまった失態により退職、大学で教鞭を執っていた。
しかし、元刑事の性(さが)が再び頭をもたげた高倉は、後輩の刑事・野上(東出昌大)に乞われ、未解決一家失踪事件の謎を究明すべく、事件唯一の生き残りである長女・早紀(川口春奈)の記憶をたどり事件の核心に迫ろうとしていた。
そのさなか、記憶が曖昧でかたくなに心を閉ざす早紀に対し、高倉が協力の懇願として口にしたセリフ。
言わば職業的な紋切り型と言ってもいい口説き文句ですが、“真実”の一義的な価値をシンプルに言い表しています。
ただし世の中で“真実”は、取り扱い要注意でもあります。むやみやたらと追い求めたり扱ったりすべきではないとすら言えるほどに、悪しき作用を及ぼすことも大いにあり得ます。
そして、時としてとんでもなく恐ろしい闇が潜む場合があり、まさに高倉たちはその闇に飲み込まれ、翻弄されて行くのです…
お前、さしずめインテリだな?それじゃ余計女にモテないよ。ダメだ、あきらめな。

「男はつらいよ 翔んでる寅次郎(第23作)」より
行商先の北海道・支笏湖畔で、男(湯原昌幸)に襲われかけたひとみ(桃井かおり)を救った寅次郎(渥美清)。ひとみは田園調布の富豪令嬢で、結婚を間近かに控えていたがマリッジブルーからの現実逃避で北海道を旅していた。帰京後まもなく、結婚式を逃げ出し柴又へ寅次郎に会いに来たひとみは、とらやで暮らし始め、寅次郎との距離が縮まる。しかしそこへひとみと結婚するはずだった邦男(布施明)が度々訪れるようになり、ひとみへの執着を見せる。失恋豊富な寅次郎は邦男を慰めるが、難解な御託を並べる邦男に対して、ひとみを諦めるよう言い放った言葉。辛辣な放言に聞こえるかもしれないが、寅次郎は、容姿端麗な見た目や家柄だけではなく、意外に純朴で真っ直ぐな邦男という男の天性の魅力を理解しており、そのうえで男らしい潔さを身につけるよう示唆する、温かい言葉です。



