松竹映画に出てくる「いいセリフ」をご紹介します。
まぁ あれだな
つらいこともあるんだろうけど 辛抱してやれや
一所懸命辛抱してやってりゃ いいことあるよ
何か困ったことあったら いつでも来いや

「幸福の黄色いハンカチ」より
失恋した花田欣也(武田鉄矢)は会社を辞めた退職金で新車を買い、心の痛手を癒すために北海道へ旅に出ました。道東で訳アリっぽい小川朱美(桃井かおり)という女性と出会った鉄也は、網走刑務所から出所したばかりの島勇作(高倉健)とも知り合い、三人で旅を進めます。
勇作は夕張の炭鉱で働き結婚していましたが、流産をきっかけに妻・光枝(倍賞千恵子)が前夫との間でも流産していた事が発覚、秘密を嫌った勇作は光枝と諍いを起こし、やけになって出かけた夜の歓楽街でチンピラたちに絡まれ、そのうちの一人を殺してしまったのでした。
粛々と受刑の日々が進むなか、まだ若い光枝の将来の再婚と出産のためによかれと獄中で離婚を強行していた勇作ですが、刑期を終える直前に光枝に手紙を送りました。そして、その手紙に勇作が込めたメッセージの結末を確かめに、三人はいちかばちか勇作の妻のもとへ、はるばる夕張へと向かうことに。
道中、ひょんなことから勇作が車を運転することになりますが、そこで運悪く検問に引っ掛かり、服役中に免許が失効している勇作の無免許運転が発覚してしまいます。しかし、勇作が逃げようとも隠そうともせず正直に自白したこと、そして運よく奇遇にも所轄警察署の交通係長・渡辺(渥美清)が、かつて勇作が夕張で殺人事件を犯した時の担当警察官だったことで、無免許運転が軽微な処分で済まされたのです。
このセリフは、そんな勇作との久しぶりの再会を喜んだ渡辺係長の、多くを語らない勇作の性格と、服役中の模範的な囚人生活を推察し、さらには出所後の心境をも慮っての言葉です。まるで同じ渥美清演じる『男はつらいよ』シリーズの寅次郎度々口にしているようなセリフで、ある意味本作ならではの独自性はありませんが、名優・渥美清の、噛んで含めるような口調と表情、行間から溢れる滋味深い人間味も相俟って、じんわりとしっかりと、確実に心に沁みるのです。
その他のちょっと良いセリフ
どんな死にも必ず意味があります。
会社というのはたくさんの歯車で成り立っている。その歯車をスムーズに噛み合わせるためには潤滑油が必要。この浜崎くんは潤滑油の役割を果たしているのではないかと思います。
女抜きで引っ越しができるとお思いですか?

「引っ越し大名!」より
藩の存亡を懸け、姫路(兵庫)から日田(大分)へ、移動人数10,000人、距離600Km、予算なし・・・という過酷な国替え=引っ越しの仕切り役「引っ越し奉行」を仰せつかった、ふだんは書庫にこもって本を読んでばかりの引きこもり侍・片桐春之介(星野源)。
柄に合わない任務と前途多難におののく春之介は、幼馴染で武芸の達人・鷹村源右衛門(高橋一生)や前任の引っ越し奉行の娘である於蘭(高畑充希)に助けられ、知恵と工夫なしではまず成し遂げられない一大事業=引っ越しに臨みます。
これは目の前の、そしてこれから間違いなく降りかかって来るであろう無理難題の数々に怖気づく春之介たちに向けた、於蘭によるこのうえなく頼もしく力強いセリフです。自信、そして前任の引っ越し奉行の娘であることの強い自負心に満ちた威勢のいいひと言は、春之介たちを見事に鼓舞したのでした。
…ちなみに余談ながらも、筆者個人的に、過去に経験した幾度かの引っ越し全てにおいて、間違いなく母や妻が居たればこそテキパキと合理的に事が進んだと、心の底からの感謝と共に、強くそう思っております。
「私を殺してでも行きたい?」「行きたい」「じゃいいわ。殺してちょうだい」
“真実”と言うと聞こえがよすぎるかもしれませんが、
我々が求めているのは、それです。
10のうちひとつぐらいは真実かもしれません。
それを探し当てるのは、結構面白い作業ですよ。

「クリーピー 偽りの隣人」より
元警視庁捜査一課の刑事で庁内随一の犯罪心理学のエキスパートである高倉(西島秀俊)は、ある事件で自らの知識や経験を過信したがゆえに起こしてしまった失態により退職、大学で教鞭を執っていた。
しかし、元刑事の性(さが)が再び頭をもたげた高倉は、後輩の刑事・野上(東出昌大)に乞われ、未解決一家失踪事件の謎を究明すべく、事件唯一の生き残りである長女・早紀(川口春奈)の記憶をたどり事件の核心に迫ろうとしていた。
そのさなか、記憶が曖昧でかたくなに心を閉ざす早紀に対し、高倉が協力の懇願として口にしたセリフ。
言わば職業的な紋切り型と言ってもいい口説き文句ですが、“真実”の一義的な価値をシンプルに言い表しています。
ただし世の中で“真実”は、取り扱い要注意でもあります。むやみやたらと追い求めたり扱ったりすべきではないとすら言えるほどに、悪しき作用を及ぼすことも大いにあり得ます。
そして、時としてとんでもなく恐ろしい闇が潜む場合があり、まさに高倉たちはその闇に飲み込まれ、翻弄されて行くのです…
何もかもさ。

「青春残酷物語」より
学費滞納で除籍寸前の不良大学生・清(川津祐介)は、同じく不良の女子高生・真琴(桑野みゆき)と運命的に出会う。自分の言う事に素直に従わない年下の真琴を、苛立ちを隠さず、サディスティックに、荒々しく抱いた清。粗暴に抱かれた直後、清に何に対して怒っているのか問うた真琴への、清の返答。刹那の衝動に突き動かされ無軌道に生きる、あらゆる現実や既成概念に牙を剥き、触れるものすべてを傷付けてしまう鋭利なナイフのような清を象徴するセリフ。そこには、青春特有のまだ幼い感情に根差した眩しさと瑞々しさがあふれ出ており、年と経験を重ね常識と分別を得た大人にとっては、懐かしく、羨ましく思えるかもしれない。しかし、若さは往々にして手痛い代償を支払うことになることを、二人は知ることになる…
成功すれば もちろんいい
しかし失敗して赤字を出したとしても
やらねえよりマシだと 俺は思うな
何て言ったらいいか
赤字をおっかながってやらないのは
それでもう失敗なんだ
だから失敗をおっかながってやらねえより
やって失敗したほうが 俺はいいな

「同胞」より
岩手県にある過疎に苦しむ農村の青年会会長・清水高志(寺尾聡)を、東京の劇団スタッフ河野秀子(倍賞千恵子)が訪ねて来ました。村でのミュージカル公演を青年会に主催して欲しいという劇団側、その要望に応えて公演主催を実現したい高志ほか青年会の中心メンバーたち。しかし、主催するということは赤字だった場合のリスクを背負うことを意味し、反対意見が大多数でした。高志の熱意によって賛同者は徐々に増えていたとはいえ、青年会全体の意見は割れている状態で、最終結論を出す総会を迎えます。
このセリフは、総会での議論が紛糾する中で、結論が出ずに暗礁に乗り上げかけた際に、とある青年会のメンバーが発言したものです。
素朴で親しみやすい中に、芯の強い、腰の入った勇気と覚悟、そして力強さがこもった、とても普遍性がある言葉です。仕事、スポーツ、受験などなど、組織や個人の別を問わず、ジャンルも問わず、すべての挑戦者の胸に宿り息づいて欲しい考えです。筆者も本作を鑑賞し、このセリフに出会い、襟を正した次第です。
この発言をきっかけに、議論の風向きは代わり、ついに公演主催が決定します。そして、幾度となく中止の瀬戸際にたちながら、団結した若い力はとうとう公演当日を迎えます。果たしてその結末は…?
ところであなたたち、何者ですか?

「CUBE 一度入ったら、最後」より
年齢も性別も職業も不明、何の接点もない見ず知らずの男5人女1人の計6人が、突然密室に閉じ込められました。理由不明、心当たりも全くない、きわめて不安かつ理不尽な状況で、紅一点である女(杏)が発したひと言です。口に出すかどうかはさておき、この状況下でそう思うのは当然です。
思えば、入学式で同じクラスの同級生たちに対して、あるいは入社式で同期たちに対してなど、任意で選ばれた複数の人間が互いに初めて顔を合わせる時に、これから過ごす時間や起こる出来事、歩む道のりなど自分たちを待ち受ける未来にワクワクする気持ちと共に、自分以外の連中は何者なんだろう?という興味関心を誰しも抱いたことがあると思います。
このセリフには、ある意味それに近いものがあると言えます。
しかし本作、残念なことに、彼ら見ず知らずの6人を待ち受けるのは、ワクワクとは程遠い、そんな感情が微塵も許されないような過酷な状況でした。熱感知レーザーや火炎放射器など、あり得ない凶悪な殺人トラップの数々がほぼノンストップで襲い来るのです。理不尽、ここに極まれり…。
毎日続けて仕事があるってのは結構なことだよ

「故郷」より
瀬戸内海の小さな島に住む精一(井川比佐志)、民子(倍賞千恵子)の夫婦は、石船と呼ばれる小さな木造船で石を運び、年老いた父(笠智衆)と二人の子供と生活する糧としていました。大資本家が機械化の進んだ最新の大型船を使い効率よく合理的に作業を遂行するこの時世に、小さな古い石船に執着するのは無駄だと言われ、それを分っていながらも、この生活に深い愛着のある二人でした。
しかし、船のエンジンの不調と高額で見通しのつかない修理、今の石船を諦め工場で働かないかという義弟の勧めなどで、次第にこの故郷を離れる決心を迫られる精一と民子。瀬戸内工業地域の巨大なコンビナート群が、精一の心に重い影を落とします。そして、実際に工場を見学した精一は、重大な決断を迫られることになるのです。
このセリフは、上述したような、いわゆる産業の進化、資本主義の成熟に取り残された零細事業者の悲しみ、そして日々の質素な生活の単調さをボヤく精一に、一家馴染みの魚の行商・松下さん(渥美清)がかけた言葉です。
ふだん仕事に行き詰まったり追い込まれた時、逃げ出したい、放り投げたい、辞めたいという思念についつい支配されますが、そんな時に、先ずは一旦この言葉を胸に、目の前に仕事があることに感謝し、冷静になりたいものです。



