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映画業界が大きく変わった1970年代!当時を代表する松竹作品15選
2023.09.29
はじめに
邦画(日本映画)に興味はあるけど、どこから手をつけたらいいのか分からない、という方は多いのではないでしょうか。クラシカルな名作、海外にも影響を与えている傑作、基礎教養として知られている話題作などあまりにも数が多すぎて困ってしまいますよね。
そこで今回は、映画業界が大きく変わった「1970年代の邦画(日本映画)」の中から松竹おすすめの15作品をセレクトしました。
1970年代の日本映画界の状況や邦画作品の特徴についても紹介しているのでぜひ気になる作品を見つけてみてください。
松竹ではおうちで楽しめるDVDを販売しています。公式サイトからぜひチェックしてみてください。
1970年代の日本映画界の状況と邦画作品の特徴は?
映画館観客数がピークに達した1958年、その数は11億2745万人でしたが、1970年は2億5000万人まで落ち込んでしまいました。映画産業は斜陽の一途を辿り、ついには1971年、日活と大映は倒産。日活は同年、「ロマンポルノ」という成人映画路線をスタートさせ、大映は1974年に徳間書店傘下の映画製作子会社に。他のメジャー会社、東宝、東映、松竹も生き残りをかけて企画や路線の見直し、企業自体の合理化を進めていきます。
顕著だったのは、各社の“顔”であった人気シリーズがだんだんと姿を消していき、大監督や銀幕のスターたちは古巣を離れて新天地へ。また、映画館の番組を埋めるために量産されていたプログラムピクチャーの主演に人気アイドル歌手、タレントらがこれまで以上に参入し、企画の方向性に関しても大作志向や海外映画のヒットトレンドの取り入れ、ベストセラーの小説、劇画、アニメ、TVドラマの映画化など、試行錯誤が続きました。
例えば、1970年代中盤までの大作路線のメガヒット作は東宝の『日本沈没』(1973年)、松竹の『砂の器』(1974年)ほかがあり、希少になった新規のシリーズ物では1969年に始まった渥美清主演、松竹の『男はつらいよ』が回を重ねるごとに人気を集め、東映では『仁義なき戦い』『トラック野郎』の両シリーズで主役の菅原文太が気を吐いていました。
しかし、洋画(外国映画)が邦画(日本映画)の興行を完全に上回り、“洋高邦低”の状況はすっかり定着。そんな中、出版界の寵児だった角川春樹が映画製作に乗りだして、1976年の『犬神家の一族』でメディアミックス戦略(※1)を展開、いきなりこの年の配給収入ランキング2位に躍り出て、1977年の『人間の証明』は2位、1978年の『野性の証明』は1位に。角川式メディアミックスとあわせて大作の一本立て興行は映画業界に深い影響を与え、70年代後半から半ばヒットの方程式と化し、東宝の『八甲田山』(1977年)、松竹の『八つ墓村』(1977年)、東映の『柳生一族の陰謀』(1978年)、『銀河鉄道999』(1979年)などが配収ランキングの上位を占めます。一方で、「2本立て」という興行形態と共に、邦画を支えてきたプログラムピクチャーはますます減少していくのでした。
※1 メディアミックス戦略とは作品の認知度拡大を図るためにあらゆるメディア(媒体)を組み合わせて宣伝していくマーケティング手法
1950年代~2000年代の松竹おすすめ映画はこちらから確認できます。時代背景を感じる作品を多く取り上げていますのでぜひご覧ください。
松竹担当者が選ぶ!1970年代おすすめの邦画(日本映画)15選
このように日本映画の在り方が大きく変わった1970年代。
数ある作品の中から松竹担当者がおすすめしたい15の邦画作品を紹介します。
1. 家族(1970年)
山田洋次監督の“重要テーマ”が直接的に題名に記され、時代を見つめたセミドキュメンタリータッチの壮大なロードムービー。主役は山田組のミューズ・倍賞千恵子で、故郷長崎の離島の炭鉱閉山を機に夫(井川比佐志)の長年の夢を叶えるべく(義父と幼い子供たちも含め)一家5人で列島を縦断、北海道の開拓村への移住を試みる。本作の言わば「タイムスリップ機能」は強力で、観れば「1970年の日本」にワープ! 当時の世相(例えば途中訪れる大阪万博)や庶民(各地の一般の人々)の姿をあえて映し込んでいるのだ。ちなみに、今まで“民子”の役名で倍賞千恵子が主演した山田洋次映画は3本あり、本作のあと、『故郷』(1972年)、『遙かなる山の呼び声』(1980年)と続く。
作品情報
公開(年):1970年
ジャンル :ロードムービー、人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :倍賞千恵子、井川比佐志、前田吟、渥美清、笠智衆
上映時間 :106分
今も現役で活躍する山田洋次監督の映画人生と松竹おすすめの作品は別の記事でも紹介しています。
▼関連記事:巨匠「山田洋次」監督の映画づくりと新作・名作を要チェック!
2. 喜劇・女は男のふるさとョ(1971年)
何故なのか。“喜劇”と銘打っているのに涙腺が決壊する。しかも悲しいのではなく、とにかくググッと込み上げてくる。それが森﨑東監督の「女」シリーズである。第1弾は1970年代の初頭、ゴールデン街付近の(お座敷)ストリッパー斡旋所・新宿芸能社の情深い経営者夫婦(森繁久彌、中村メイコ)と、気はいいがハチャメチャな踊り子たちがメインキャラ(倍賞美津子は旅回りから帰ってきて騒動を起こし、緑魔子はすっぴんが“泣きべそ顔”という役柄)。原作は直木賞作家・藤原審爾の連作短編集『わが国おんな三割安』で、森﨑東監督は山田洋次、熊谷勲と共同で脚本も。血縁はないけれども血の通ったファミリーの喜怒哀楽を綴っており、実は「怒劇」成分が強し!
作品情報
公開(年):1971年
ジャンル :コメディ、人間ドラマ
監督 :森﨑東
キャスト :森繁久彌、倍賞美津子、緑魔子、中村メイコ、伴淳三郎
上映時間 :91分
松竹おすすめのコメディ映画はこちらの記事で詳しく紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
▼ストレス発散!笑えるコメディ邦画(日本映画)松竹作品15選
3. 旅の重さ(1972年)
実家を飛び出した16歳の少女がお遍路のごとく、四国の地を放浪してゆく。オーディションによりヒロインに抜擢された高橋洋子の初々しい存在感に瞠目させられ、同じく映画初出演、次点で選ばれた文学少女役の小野寺久美子(後の秋吉久美子)の儚げなさも印象深い。素九鬼子の極私的な同名小説が原作だが、「ディスカバー・ジャパン」の流行下、旅を通しての若者の“自己発見”という1970年代フィーリングも体現した一作。監督の斎藤耕一はスチールカメラマン出身だけに画作りや編集がフォトジェニーで、音楽のセンスも良く、この青春ロードムービーを吉田拓郎(当時は“よしだたくろう”)の名曲「今日までそして明日から」が優しく包み込んでいる。
作品情報
公開(年):1972年
ジャンル :ロードムービー、青春ドラマ、人間ドラマ
監督 :斎藤耕一
キャスト :高橋洋子、岸田今日子、高橋悦史、横山リエ、三國連太郎
上映時間 :90分
4. 必殺仕掛人(1973年)
「仕掛人」と言ってもドッキリ企画ではない。いや! ヤラれる当人にとってはまさしくドッキリか。依頼主の事情&報酬と引き換えに、江戸にはびこる悪党どもを成敗する殺しのプロたち。時代小説の大家・池波正太郎のダークヒーロー物のTV版に続く、有名回のエッセンスを盛り込んだ劇場版第1作だ。表の顔は腕利きの鍼医者、裏では鍼を武器とする藤枝梅安と、浪人剣客の西村左内。演じたのは田宮二郎と高橋幸治という映画独自の男前キャストであったが、仕掛人の元締・音羽屋半右衛門は変わらず山村聰が扮している。監督の渡邊祐介は第2弾『必殺仕掛人 梅安蟻地獄』(1973年)も手がけ、以後TV版『必殺』シリーズにも長く関わることに。
作品情報
公開(年):1973年
ジャンル :時代劇
監督 :渡邊祐介
キャスト :田宮二郎、高橋幸治、山村聡、川地民夫、野際陽子
上映時間 :87分
5. 砂の器(1974年)
「原作超え」の1970年代邦画の代表格と言えば、昭和の文豪・松本清張自らが認めたコレ。事件は東京・蒲田駅の操車場にて起き、殺害された男(緒形拳)が発したという謎の言葉、“カメダ”を手掛かりに捜査陣は東北から山陰を横断してゆく。確証を握って捜査会議に挑むベテラン刑事(丹波哲郎)。同時にカットバックで紡がれるのはキーマンの新進作曲家(加藤剛)の今と過去。エモーショナルなピアノ協奏曲『宿命』がホールで初演され、子供時代の旅の回想と消せぬ心象風景がオーバーラップする“立体的構成”が胸を打つ。「清張映画」の第一人者、野村芳太郎監督と脚本・橋本忍、山田洋次の名タッグによるマスターピースだ。
作品情報
公開(年):1974年
ジャンル :サスペンス
監督 :野村芳太郎
キャスト :丹波哲郎、森田健作、加藤剛、加藤嘉
上映時間 :143分
日本の映画史に残る名作についてはこちらの記事で詳しく紹介しています。気になる方はこちらの記事もあわせて見てみてくださいね。
6. 愛と誠(1974年)
冒頭に掲げられた、「愛は平和ではない 愛は戦いである」という檄文で始まるエピグラフからしてヤバすぎだ。幼い頃、スキー場で少女は命を救われ、その代償で少年の額には醜い傷が刻まれた。そして再び、運命の出会いを果たした財閥令嬢・愛と不良青年・太賀誠――誠役は映画初主演、当時超絶人気の西城秀樹で、ヒロインはオーディションで選ばれ、役名をまるごと芸名にした早乙女愛。「僕は君のためなら死ねる!」と愛に宣言する秀才・岩清水(仲雅美)も交えて、激しくもドラマチック過ぎる“純愛”が展開する。原作・梶原一騎、作画・ながやす巧の同名人気漫画に技巧派・山根成之監督が挑んだ、王道アイドル映画にして熱血変格メロドラマ。
作品情報
公開(年):1974年
ジャンル :恋愛
監督 :山根成之
キャスト :西城秀樹、早乙女愛、仲雅美、高岡健二、鈴木瑞穂
上映時間 :89分
続編も配信サービスで視聴できます
7. ブロウアップ・ヒデキ(1975年)
アジアのスーパースター、そして不世出のシンガー・西城秀樹。伝説のパフォーマンス多き彼のモニュメントのひとつ、1975年に敢行された一大ツアー「全国縦断サマーフェスティバル'75」の密着ドキュメンタリーである。かの“ウッドストック”のような野外ロックイベントを企図したものだが、富士山麓に特設ステージを用意し、30mクレーン3台を駆使してゴンドラに乗り込んだヒデキは空高くに吊られながらザ・ローリング・ストーンズの珠玉のバラード「悲しみのアンジー」や、自らのヒット曲「恋の暴走」「情熱の嵐」をシャウト! このライブを皮切りに、ラストの大阪球場まで駆け抜けた 20歳のヒデキとファンの熱い夏を収めた貴重な作品だ。
作品情報
公開(年):1975年
ジャンル :ライブ、ドキュメンタリー
監督 :田中康義
キャスト :西城秀樹、惣領泰則、一の宮はじめ、永尾公弘とザ・ダーツ、藤丸BAND
上映時間 :87分
8. 幸福の黄色いハンカチ(1977年)
1960年代に東映任侠映画のヒーローだった高倉健の初の松竹出演作は大イメチェンを果たした役柄の、感動ロードムービーだった。 “健さん”が演じたのは妻(倍賞千恵子)の流産にショックを受け、ヤケになってチンピラを喧嘩で殺めてしまった元炭坑夫。出所後に北海道を旅する若いカップル(武田鉄矢、桃井かおり)と出会い、閉ざした心を次第に開いていき、自分を待つ妻の証“黄色いハンカチ”をその目で確かめるため共に夕張を目指す――。コラムニストのピート・ハミルが1971年、NYポスト紙に発表した『Going Home』を翻案した名監督山田洋次の演出は、当時定着したヤクザ役から脱皮しようともがいていた健さん自身と重ねているよう。
作品情報
公開(年):1977年
ジャンル :人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :高倉健、倍賞千恵子、武田鉄矢、桃井かおり
上映時間 :108分
9. 悲愁物語(1977年)
海外のクリエイターも心酔する鈴木清順監督の、伝説の日活アクション『殺しの烙印』(1967年)以来10年ぶりの復帰作は松竹映画史上のカルトムービーに! 原案は劇画界の巨人・梶原一騎。鬼トレーナー(原田芳雄)の下、主人公が特訓を重ねて女子プロゴルファーとして成功していく前半は“梶原イズム”を継いだスポ根(※2)タッチだが、途中からサイコスリラーへ移行する。当初のタイトルは「魔女狩り」で、江波杏子ら隣人暴走主婦たちの早すぎたストーカー映画でもあるのだ。ちなみに劇中翻弄されまくる主演の白木葉子は、梶原が(高森朝雄名義で)原作を書いたあの『あしたのジョー』のヒロイン名をそのまま芸名としたのだった。
※2 「スポーツ×根性」
作品情報
公開(年):1977年
ジャンル :カルトムービー、サスペンス、ホラー
監督 :鈴木清順
キャスト :白木葉子、原田芳雄、岡田真澄、野呂圭介、江波杏子
上映時間 :93分
10. 鬼畜(1978年)
“人間というミステリー”を見つめるのが松本清張文学の魅力のひとつ。野村芳太郎監督は心理描写に長けた脚本家・井手雅人と組んで、ここでもそれを踏襲してみせる。男(緒形拳)には3人の隠し子がいた。だが家内制のしがない印刷屋がうまく回らず、手当を貰えなくなった愛人(小川真由美)は家へ乗り込み、子供たちを置き去りに。逆上した妻(岩下志麻)は虐待に走り、末っ子の幼児は衰弱死し、男は残る3歳の長女と6歳の長男の処遇を迫られる。清張が実話をもとに執筆した同名短編にかなり忠実だが、映画オリジナルのラストシーンが待っており、シンプルな題名の中に「親子の絆と断層」が普遍的ミステリーとして残響する。
作品情報
公開(年):1978年
ジャンル :ミステリー
監督 :野村芳太郎
キャスト :緒形拳、岩下志麻、蟹江敬三、大竹しのぶ、小川真由美
上映時間 :110分
松竹おすすめのサスペンス・ミステリー映画はこちらの記事で詳しく紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
▼絶対おすすめ!邦画(日本映画)サスペンス・ミステリーの松竹作品15選
11. 雲霧仁左衛門(1978年)
時は江戸中期の享保。神出鬼没の盗賊・雲霧仁左衛門(仲代達矢)とその一味(妖艶な“七化けのお千代”役に岩下志麻!)の暗躍を豪華キャストで描いた時代劇大作だ。主人公はかつて仕えていた藩に裏切られ、許婚者(松坂慶子)まで奪われており、リベンジを狙うピカレスクロマンでもある。また好敵手、火附盗賊改方を率いる安部式部役は六代目市川染五郎(現・二代目松本白鸚)で、実の父、八代目松本幸四郎(初代松本白鸚)との胸熱な共演シーンも。監督は仲代達矢とは名コンビの五社英雄。原作者の池波正太郎を怒らせるほど大胆な脚色を施したが、ケレン味溢れる面白さ優先、それがザ・五社映画。ド派手で血飛沫満載な殺陣が楽しめる。
作品情報
公開(年):1978年
ジャンル :時代劇
監督 :五社英雄
キャスト :仲代達矢、岩下志麻、松坂慶子、六代目市川染五郎(現・二代目松本白鸚)、八代目松本幸四郎(初代松本白鸚)
上映時間 :163分
12. 皇帝のいない八月(1978年)
おそらく今では実現不可能な、大胆な企画だろう。元自衛隊員(渡瀬恒彦)が隊の反乱分子を従え、武力クーデターを試みてしまうというポリティカル・サスペンスなのだ。タイトルは劇中の作戦のコードネームを指す。乗っ取られた博多発東京行きのブルートレイン「寝台特急さくら号」。鎮圧に動き、暗躍する政府との攻防が見応えあり。実行犯の妻役、吉永小百合を筆頭に隅々までキャスティングに贅を尽くし、大作を得意とした社会派エンターテイメントの雄、山本薩夫監督が公権力のあり方に一石投じている。過去の事例に基づいて刺激的な原作小説を書いたのは、元松竹の助監督・脚本家・プロデューサーなどの経歴を持つ推理作家・小林久三。
作品情報
公開(年):1978年
ジャンル :サスペンス
監督 :山本薩夫
キャスト :渡瀬恒彦、吉永小百合、佐分利信、丹波哲郎、三國連太郎
上映時間 :140分
13. 復讐するは我にあり(1979年)
マーティン・スコセッシやポン・ジュノら、世界の巨匠たちが絶賛を惜しまないヘヴィ級の実録犯罪ドラマである。全国で詐欺、窃盗を重ねた上に5人の命を奪い、偽装・変装・逃亡を繰り返したシリアルキラー(緒形拳)の驚くべき生態に迫る映画で、ベースとなったのはノンフィクション作家・佐木隆三が直木賞を獲得した同名小説。カンヌ国際映画祭の最高賞(パルム・ドール)を生涯2度も受賞するなど、国内外で名を馳せた今村昌平監督の豪腕が隅々まで唸り、この殺人鬼の父親(三國連太郎)、妻(倍賞美津子)、被害者(小川真由美)の言動も含めて理性では計れぬ、むき出しの“人間の業”を圧倒的な画力で描き出している。
作品情報
公開(年):1979年
ジャンル :サスペンス
監督 :今村昌平
キャスト :緒形拳、三國連太郎、倍賞美津子、小川真由美、ミヤコ蝶々
上映時間 :140分
14. 夜叉ヶ池(1979年)
幻想文学のパイオニア・泉鏡花が大正2年に発表した同名戯曲の映画化。しかも監督を手掛けたのは、日本の伝統芸能や演劇史に造詣の深い篠田正浩――それは、古巣の松竹へと14年ぶりに戻っての一大プロジェクトであった。村に暮らす女性・百合と夜叉ヶ池の竜神・白雪姫を演じ分けたのは後の人間国宝、当時29歳の歌舞伎界役者、五代目坂東玉三郎。国際的に活躍したこの最高峰の女形の初映画出演に加え、白雪姫が巻き起こすスペクタクルな特撮技術を駆使した大洪水シーンのために南米の世界遺産・イグアスの滝ほか海外ロケを敢行したこと、撮影所のステージを改装して50tもの水を使用したことなども語り草だ。思わず絶句する絢爛たる幻想譚である。
作品情報
公開(年):1979年
ジャンル :人間ドラマ
監督 :篠田正浩
キャスト :坂東玉三郎、加藤剛、山﨑努、唐十郎、金田龍之介
上映時間 :124分
15. 衝動殺人 息子よ(1979年)
映画は現実に言及し、社会へと影響を与え、揺り動かす……ことも! ノンフィクション作家・佐藤秀郎の『衝動殺人』に触発されたのは、かの名匠・木下惠介。町工場を営む老夫婦(若山富三郎、高峰秀子)が1966年、未成年の“理由なき凶行”で一人息子を失う。絶望から立ち上がり、犯罪被害者支援法を求めて全国の遺族を訪ね続ける二人を描いた本作は、1981年より施行された犯罪被害給付制度の一助になったと言われている。東映時代は荒くれた役柄の多かった若山富三郎だが繊細な芝居も上手く、この執念の父親役で主演男優賞を席巻。かたや木下組の常連、妻役の高峰秀子は最後の銀幕出演となった。晩年の、木下監督渾身の“告発の映画”である。
作品情報
公開(年):1979年
ジャンル :社会派、人間ドラマ
監督 :木下惠介
キャスト :若山富三郎、高峰秀子、田中健、大竹しのぶ、近藤正臣
上映時間 :130分
まとめ
いかがでしたか? 気になる作品は見つかりましたか。
エンタメやレジャーの選択肢が増え、興行的なピンチに直面し、映画界にとって激動であった1970年代。しかし今観るとまだまだ製作面の贅沢さ、豊かさを感じます。逆境に立たされ、その場をサバイバルしようと切磋琢磨し、どんな境遇であろうと頑なに撮りたいものを追求したからこそ、現在も胸に響く作品が生まれたのでしょう。映画人たちの気概と志に打たれます。
「Blu-rayやDVD」や「配信サービス」が充実している今。興味が湧き、実際に“観て良かった”と感じられる作品が見つかれば幸いです!
松竹の邦画名作品は別の記事でも紹介しています。
こちらもぜひご覧ください。
この記事を書いた人
轟夕起夫
洋画も観ますが、とりわけ邦画(日本映画)全般を視野に入れ、執筆しています。単著は『映画監督になる15の方法』(洋泉社)、『轟夕起夫の映画あばれ火祭り』(河出書房新社)、共著・編著は『清/順/映/画』(ワイズ出版)、『好き勝手夏木陽介 : スタアの時代』(講談社)、『伝説の映画美術監督たち×種田陽平』(スペースシャワーブックス)など。過去の文章やインタビュー記事をアーカイブした「読む映画館 轟夕起夫NET(http://todorokiyukio.net/)」 というサイトもあります。
※おすすめ作品は松竹の担当者が選びました。