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巨匠「山田洋次」監督の映画づくりと新作・名作を要チェック!

2023.08.24

山田洋次監督の映画づくり

はじめに

現役で活躍する、日本を代表する映画監督は誰?そう問われたとき、「山田洋次」と答える映画ファンは少なくないでしょう。『男はつらいよ』シリーズを手がけたヒットメーカーにして、『幸福の黄色いハンカチ』『たそがれ清兵衛』などの傑作を放った名匠。約70年にわたって映画の世界にたずさわり、映画監督歴は60年以上、91歳になった現在も精力的に創作活動を続けているのは、驚くべきことです。そんな名匠の長編90本目の監督作となる新作『こんにちは、母さん』の劇場公開が決定。これに併せて、山田監督のキャリアを、これまでの名作とともに振り返ってみましょう。

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映画界を牽引する「山田洋次監督」はどんな人?

山田洋次監督

心に残る名作は、作り手の意匠が込められているもの。これを作りたい、これを作らねばならない、という監督の情熱は、映画にとって大事なものとなります。山田洋次監督の作品が名作と呼ばれるのは、そのような意匠に裏打ちされているから。そんな山田監督の長いキャリアを、改めて振り返ってみましょう。

映画づくりの原点は、満州での少年時代や戦後の引き揚げ体験

1931年に大阪で生まれた山田洋次は、父が南満州鉄道に勤めていたことから、2歳のときに家族で満州、すなわち現在の中国に移り住みます。日本の植民地と化していた当時の満州での暮らしは比較的裕福なものでしたが、1945年、大戦での日本の敗戦によって状況は一変し、食べる物にも事欠く状態となりました。

日本への引き揚げ船によって帰国を果たしたのは、終戦から19か月後。引き揚げ後の生活も楽ではなく、当時中学生だった山田少年は物売りをして学費を稼いでいたとのこと。しかし貧しさの中でも、周囲の善意に支えられることも多く、それが映画作りの原体験となっていると山田監督は語っています。山田監督の多くの作品は、つつましく暮らす人々や、はみ出し者といった社会の裾野で生きる人間のドラマが描かれますが、市井の人々に注がれた暖かい視線は、そんな体験がベースになっているのかもしれません。

連続テレビドラマ「男はつらいよ」が転機に

1954年、東京大学を卒業して松竹に入社した山田洋次は助監督の経験を経て、1961年に『二階の他人』で監督デビューを果たします。当時、大島渚や篠田正浩、吉田喜重といった若い監督たちが既存の映画のスタイルを打ち破る作品を放ち、いわゆる“松竹ヌーベルバーグ”として注目を集めましたが、山田監督は喜劇の演出や脚本執筆でキャリアを積み重ねていきます。

転機が訪れたのは1969年、原案と脚本を手掛けたTVドラマシリーズ「男はつらいよ」が映画化されました。これが評判となり、すぐに2作目が製作されました。山田監督は、続く3、4作目は脚本でのみ参加しましたが、再びメガホンを取った5作目以降、シリーズの人気はますます上昇。50年で50作品が作られる、海外でも例を見ない国民的な人気シリーズへと成長を遂げると同時に、山田監督の代表作となりました。

『男はつらいよ』だけじゃない、山田洋次監督の映画作品

『男はつらいよ』は確かに有名ですが、同シリーズを手がける一方で、山田監督は他にも名作を次々と発表していきます。1977年の国内の映画賞を独占した『幸福の黄色いハンカチ』はアカデミー賞俳優ウィリアム・ハートの主演により2008年にハリウッドでリメイクされ、好評を博しました。バブル経済期を背景に、都会で暮らす息子と雪深い田舎町に住む父の絆を描いた1991年の『息子』は日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。これまた同賞に輝いた1993年の『学校』では、夜間中学の生徒たちと教師の交流を描いて感動を呼び、シリーズ化されました。また、藤沢周平の小説を映画化した2002年の時代劇『たそがれ清兵衛』は、地方藩士の清貧の生を丁寧につづって海外でも好評を博し、米アカデミー外国語映画賞の候補にもなっています。

数々の受賞歴とその作品

山田洋次監督はこれまでに様々な受賞作品を生み出しています。主な受賞作品をご紹介しています。

  • 『男はつらいよ』シリーズ(1969年〜)/ 日本アカデミー賞(最優秀監督賞・最優秀脚本賞)、ブルーリボン賞(作品賞・監督賞)・他多数
  • 『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)/日本アカデミー賞(最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞)、ブルーリボン賞(作品賞・監督賞)、キネマ旬報ベストテン第1位・他多数
  • 『遙かなる山の呼び声』(1980年)/日本アカデミー賞(最優秀脚本賞)、モントリオール世界映画祭(審査員特別賞)・他多数
  • 『息子』(1991年)/日本アカデミー賞(最優秀監督賞)、キネマ旬報ベストテン第1位・他多数
  • 『学校』シリーズ(1993年〜)/日本アカデミー賞(最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞)、毎日映画コンクール日本映画優秀賞・他多数
  • 『たそがれ清兵衛』(2002年)/日本アカデミー賞(最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞)・ブルーリボン賞(作品賞)、キネマ旬報ベストテン第1位・他多数
  • 『武士の一分』(2006年)/日本アカデミー賞(優秀作品賞・優秀監督賞・優秀脚本賞)
  • 『母べえ』(2008年)/日本アカデミー賞(優秀作品賞・優秀監督賞・優秀脚本賞)
  • 『おとうと』(2010年)/日本アカデミー賞(優秀作品賞・優秀監督賞・優秀脚本賞)
  • 『東京家族』(2013年)/日本アカデミー賞(優秀作品賞・優秀監督賞・優秀脚本賞)
  • 2010年ベルリン国際映画祭特別功労賞(ベルリナーレ・カメラ賞)
  • 2012年文化勲章

映画監督歴60年を超える山田洋次監督にはまだまだ数多くの受賞歴があります。
90歳を超えた今もなお、映画作りを続けています。

新作映画!山田洋次監督の90作目『こんにちは、母さん』

91歳の山田洋次監督が90本目の監督作として放つ新作、それが『こんにちは、母さん』です。親子の絆や葛藤を描いた本作の見どころを紹介しましょう。

現代を生きる家族の姿を描く

時代とともに家族を描き続けてきた山田洋次監督が、本作では令和の世を生きる親と子の風景を活写。舞台は東京スカイツリーがそびえる下町、向島。大企業の人事部長としてリストラ業務に神経をすり減らし、家では妻との離婚に揺れている中年男が、母の暮らす実家に久しぶりに戻ってきます。一方、母は福祉活動で知り合った教会の牧師に恋をしている様子!?

下町の人々と助け合い、人生を楽しむ母と接するうちに、精神的に辛い仕事でストレスを溜め、人間関係をぎくしゃくさせている息子の心に変化をあたえていきます。

吉永小百合&大泉洋で親子役

母を演じるのは日本を代表する女優、吉永小百合。1972年の『男はつらいよ 柴又慕情』以来、50年にわたって山田監督の作品に出演し続け、『おとうと』などの多くの名作を送り出してきました。本作は彼女の123本目の映画出演作となります。一方、その息子を演じる大泉洋は、山田監督の作品には初出演。NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」や映画『月の満ち欠け』での好演も記憶に新しい彼が、忙しい現代人の苦悩をリアルに体現しています。

『こんにちは、母さん』出演の大泉洋さんがおすすめする松竹映画を、こちらの特集ページで紹介しています!

▼『こんにちは、母さん』公開記念!大泉洋出演のおすすめ映画5選!

『母べえ』『母と暮せば』に続く「母」3部作

山田洋次監督は『母べえ』『母と暮せば』で、吉永小百合を主演に起用して母親の愛情をドラマに刻んできました。『こんにちは、母さん』は、それらに続く「母」三部作の作品となります。併せて、過去の2作品を振り返ってみましょう。

母べえ (2008年)

戦時中の自身の体験を綴った、野上照代のノンフィクションをベースにした、ある家族の物語。東京に住む野上家は父と母、娘二人の4人家族。父を“父べえ”、母を “母べえ”と愛称で呼び合う仲睦まじい家族だった。ところが昭和15年、ドイツ文学者である父が政府批判を唱えたとの理由で、特高警察に逮捕される。戦争の影に日本中が覆われていく中、母べえと娘たちは苦難とともに過ごすことになる……。人々の善意に支えられ、ときに悪意にさらされながらも、厳しい時代を生き抜いた家族。生き方を曲げない母べえのたくましさや、思春期の娘たちの心の揺れがくっきりと描かれ、深い余韻を残す。平和への願いが込められた力作。

作品情報

公開(年):2008年

ジャンル :人間ドラマ

監督   :山田洋次

キャスト :吉永小百合、浅野忠信、檀れい、十代目坂東三津五郎、笑福亭鶴瓶

上映時間 :133分

母と暮せば (2015年)

井上ひさしの戯曲『父と暮せば』と対を成す体で、山田監督が創作したファンタジー。舞台は終戦後の長崎。戦争によって夫や息子を亡くした助産婦の伸子は、原爆によって命を絶たれた次男、浩二がまだ生きているのではないか…という思いにとらわれていた。そんなある日、亡くなったはずの浩二が現われる。驚きの再会ではあったが、伸子はかなわないと思っていた浩二との交流を喜んだ。浩二は生前の恋人、町子に未練を残しており、伸子は息子の気持ちを察しつつも、諦めるように諭すのだが……。山田監督には珍しいファンタジーだが、ベースは戦後の混乱の中で必死に生きる庶民のドラマ。戦争によって壊れた人間の幸福の再生が、暖かいまなざしで描かれる。浩二役の二宮和也は日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。

作品情報

公開(年):2015年

ジャンル :人間ドラマ

監督   :山田洋次

キャスト :吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一

上映時間 :130分

『母べえ』と『母と暮せば』、そして『こんにちは、母さん』の「母」三部作は、物語上のつながりはなく、それぞれに独立したドラマですが、つつましく暮らす庶民的な母親の、子どもへの愛情が強く伝わってくるという点で共通しています。最初の二作を見れば、今回の新作もより楽しめるでしょう。

『こんにちは、母さん』は2023年9月1日より劇場公開

NHKでドラマ化されたこともある永井愛の同名の人気戯曲をベースにして、東京の下町で生まれ育った母と息子の葛藤がユーモアとともに綴られています。人間味と人情味にあふれた山田ワールドを堪能しましょう。

松竹担当者が選ぶ山田洋次監督の名作映画3選

山田洋次監督が多くの名作を発表してきたことは、ここまで触れたとおり。何から見ていけばいのか、迷われる方もいるでしょう。そこで、松竹担当者が選出したお勧めの3本をご紹介。ヒューマニズムにあふれた、山田監督らしいドラマを楽しんでみてください。

1. 幸福の黄色いハンカチ(1977年)

第1回の日本アカデミー賞で作品賞など6部門を制し、国内の映画賞を独占した名作。失恋してヤケになり、車で旅に出た青年、欽也は北海道で同じく傷心旅行中のOL、朱美をナンパ。さらに、成り行きでワケありの中年男、勇作を車に乗せることになる。3人の旅は騒動の連続だったが、やがて勇作が服役を終えたばかりの身で、かつて住んでいた夕張に戻ろうとしていることが判明。夕張には妻が住んでいるが、今も彼を待っているのかはわからない。欽也と朱美は勇作を励まし、夕張へと向かい……。ユーモラスで人間味あふれるロードムービーをとおして、愛することの意味を問いかける。主演の高倉健はもちろん、当時若手だった武田鉄矢や桃井かおりの好演を引き出し、さまざまな世代の共感を呼ぶ人間ドラマとなった。

作品情報

公開(年):1977年

ジャンル :人間ドラマ

監督   :山田洋次

キャスト :高倉健、倍賞千恵子、武田鉄矢、桃井かおり

上映時間 :108分

日本の映画史に残る名作映画はこちらの記事でも詳しく紹介していますので、あわせて見てみてください。

▼傑作から話題作まで!名作邦画(日本映画)の松竹作品15選

2. 下町の太陽(1963年)

倍賞千恵子の同名のヒット曲をモチーフにした青春ドラマで、山田監督の長編2作目。ヒロインの町子は東京・下町の石鹸工場で工員をしている。同じ工場で事務職に就いている恋人は出世欲が強く、本社採用を目指して試験勉強に励んでいた。そんなある日、町子の中学生の弟が万引き事件を起こす。そんな彼を、鉄工所で働く青年がかばった。不良っぽくてガラは悪いが、性根は優しい青年に、町子はときめきを覚え……。昭和中期の東京、墨田区の下町の空気感をとらえながら、当時の庶民生活を生き生きと描写。キャリア初期の作品ながら、ヒロインと恋人とのやりとりにおける表情やしぐさのとらえ方に、山田監督らしい繊細な演出がよく表われている。

作品情報

公開(年):1963年

ジャンル :人間ドラマ

監督   :山田洋次

キャスト :倍賞千恵子、勝呂誉、早川保、田中晋二

上映時間 :86分

『下町の太陽』が公開された1960年代の松竹おすすめ映画はこちらの記事で詳しく紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。

▼1960年代は名作邦画(日本映画)の宝庫!?昔を振り返る松竹作品15選

3. 家族(1970年)

『男はつらいよ』の一作目を手がけてヒットさせた後、山田監督の希望の企画として生み出された、家族の旅の物語。長崎県の伊王島に暮らす家族。貧しい生活に見切りをつけて、北海道で開拓地に入植することにした一家は桜咲く4月、島を後にして本土へ。祖父と父、母、子どもふたりの汽車の旅は続くが、東京に着いたとき、予期せぬ事件が起こる……。九州から本州を横断し、北海道へと向かう旅の模様を、山田監督はドキュメンタリーのような視点で淡々と描出。大阪での万博をはじめ、高度経済成長期の日本の景色を取り入れ、主人公たちの貧困と対比させた演出も絶妙だ。一家の母親、民子という役名は、同じ倍賞千恵子に『故郷』『遙かなる山の呼び声』でもあたえられ、これらは山田監督の“民子三部作”と呼ばれるようになった。

作品情報

公開(年):1970年

ジャンル :ロードムービー、人間ドラマ

監督   :山田洋次

キャスト :倍賞千恵子、井川比佐志、前田吟、渥美清、笠智衆

上映時間 :106分

3作品をピックアップしましたが、山田洋次監督の秀作はもちろんこれだけではありません。ほとんどの作品はブルーレイやDVDなどのソフト、動画配信サイトで見ることができます。気になる作品があれば、ぜひチェックしてみてください。

まとめ

山田洋次監督の作品は、つねに人と人とのつながりをじっくりと見つめています。奇をてらわず、あくまで人間の心情に寄り添う、その温かさこそが魅力。もちろん人間だから誤解もあり、衝突もありますが、それらをユーモラスな状況として描いている点は山田監督ならではの人間喜劇の妙とも言えるでしょう。新作『こんにちは、母さん』も、そんな山田監督の手腕が生きた必見作。同作を見る前に、ぜひ山田監督が作り出した名作群を体験してみてください。

この記事を書いた人

相馬学

1966年、秋田県生まれ。情報誌の編集を経てフリーライターとなり30年。「SCREEN」「DVD&動画配信でーた」などの雑誌や劇場パンフレットなどの紙媒体、「シネマトゥデイ」「ぴあ映画生活」「CINEMORE」「Re:minder」などのインターネット媒体で取材記事やレビュー、コラムを執筆。

※おすすめ作品は松竹の担当者が選びました。

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