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巨匠「山田洋次」監督の代表作をチェック!名作16選
2023.08.24 (最終更新日: 2025.01.28)

はじめに
現役で活躍する、日本を代表する映画監督は誰?そう問われたとき、「山田洋次」と答える映画ファンは少なくないでしょう。『男はつらいよ』シリーズを手がけたヒットメーカーにして、『幸福の黄色いハンカチ』『たそがれ清兵衛』などの傑作を放った名匠。約70年にわたって映画の世界にたずさわり、映画監督歴は60年以上、90歳を超えた現在も精力的に創作活動を続けているのは、驚くべきことです。そんな名匠・山田監督のキャリアを、過去の名作とともに振り返ってみましょう。
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映画界を牽引する「山田洋次監督」はどんな人?

心に残る名作は、作り手の意匠が込められているもの。これを作りたい、これを作らねばならない、という監督の情熱は、映画にとって大事なものとなります。山田洋次監督の作品が名作と呼ばれるのは、そのような意匠に裏打ちされているから。そんな山田監督の長いキャリアを、改めて振り返ってみましょう。
映画づくりの原点は、満州での少年時代や戦後の引き揚げ体験
1931年に大阪で生まれた山田監督は、父が南満州鉄道に務めていたことから、2歳のときに家族で満州、すなわち現在の中国に移り住みます。日本の植民地と化していた当時の満州での暮らしは比較的裕福なものでしたが、1945年、大戦での日本の敗戦によって状況は一変し、食べる物にも事欠く状態となりました。
日本への引き揚げ船によって帰国を果たしたのは、終戦から19か月後。引き揚げ後の生活も楽ではなく、当時中学生だった山田少年は物売りをして学費を稼いでいたとのこと。しかし貧しさの中でも、周囲の善意に支えられることも多く、それが映画作りの原体験となっていると山田監督は語っています。山田監督の多くの作品は、つつましく暮らす人々や、はみ出し者といった社会の裾野で生きる人間のドラマが描かれますが、市井の人々に注がれた暖かい視線は、そんな体験がベースになっているのかもしれません。
連続テレビドラマ「男はつらいよ」が転機に
1954年、東京大学を卒業して松竹に入社した山田監督は助監督の経験を経て、1961年に『二階の他人』で監督デビューを果たします。当時、大島渚や篠田正浩、吉田喜重といった若い監督たちが既存の映画のスタイルを打ち破る作品を放ち、いわゆる“松竹ヌーベルバーグ”として注目を集めましたが、山田監督は喜劇の演出や脚本執筆でキャリアを積み重ねていきます。
転機が訪れたのは1969年、原案と脚本を手掛けたTVドラマシリーズ「男はつらいよ」が映画化されました。これが評判となり、すぐに2作目が製作されました。山田監督は、続く3、4作目は脚本でのみ参加しましたが、再びメガホンを取った5作目以降、シリーズの人気はますます上昇。50年で50作品が作られる、海外でも例を見ない国民的な人気シリーズへと成長を遂げると同時に、山田監督の代表作となりました。
『男はつらいよ』だけじゃない、山田洋次監督の映画作品
『男はつらいよ』は確かに有名ですが、同シリーズを手がける一方で、山田監督は他にも名作を次々と発表していきます。1977年の国内の映画賞を独占した『幸福の黄色いハンカチ』はアカデミー賞俳優ウィリアム・ハートの主演により2008年にハリウッドでリメイクされ、好評を博しました。バブル経済期を背景に、都会で暮らす息子と雪深い田舎町に住む父の絆を描いた1991年の『息子』は日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞。これまた同賞に輝いた1993年の『学校』では、夜間中学の生徒たちと教師の交流を描いて感動を呼び、シリーズ化されました。また、藤沢周平の小説を映画化した2002年の時代劇『たそがれ清兵衛』は、地方藩士の清貧の生を丁寧につづって海外でも好評を博し、第76回米国アカデミー賞外国語映画部門のノミネート作品にもなっています。
数々の受賞歴とその作品
山田洋次監督はこれまでに様々な受賞作品を生み出しています。主な受賞作品をご紹介しています。
- 『男はつらいよ』シリーズ(1969年〜)/日本アカデミー賞(最優秀監督賞・最優秀脚本賞)、ブルーリボン賞(作品賞・監督賞)・他多数
- 『幸福の黄色いハンカチ』(1977年)/日本アカデミー賞(最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞)、ブルーリボン賞(作品賞・監督賞)、キネマ旬報ベストテン第1位・他多数
- 『遙かなる山の呼び声』(1980年)/日本アカデミー賞(最優秀脚本賞)、モントリオール世界映画祭(審査員特別賞)・他多数
- 『息子』(1991年)/日本アカデミー賞(最優秀監督賞)、キネマ旬報ベストテン第1位・他多数
- 『学校』シリーズ(1993年〜)/日本アカデミー賞(最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞)、毎日映画コンクール日本映画優秀賞・他多数
- 『たそがれ清兵衛』(2002年)/日本アカデミー賞(最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀脚本賞)・ブルーリボン賞(作品賞)、キネマ旬報ベストテン第1位・他多数
- 『武士の一分』(2006年)/日本アカデミー賞(優秀作品賞・優秀監督賞・優秀脚本賞)
- 『母べえ』(2008年)/日本アカデミー賞(優秀作品賞・優秀監督賞・優秀脚本賞)
- 『おとうと』(2010年)/日本アカデミー賞(優秀作品賞・優秀監督賞・優秀脚本賞)
- 『東京家族』(2013年)/日本アカデミー賞(優秀作品賞・優秀監督賞・優秀脚本賞)
- 2010年ベルリン国際映画祭特別功労賞(ベルリナーレ・カメラ賞)
- 2012年文化勲章
映画監督歴60年を超える山田洋次監督にはまだまだ数多くの受賞歴があります。
90歳を超えた今もなお、映画作りを続けています。
松竹担当者が選ぶ山田洋次監督の代表作16選
山田洋次監督が多くの名作を発表してきたことは、ここまで触れたとおり。何から見ていけばよいのか、迷われる方もいるでしょう。そこで、松竹担当者が選出したお勧めの16本をご紹介。ヒューマニズムにあふれた、山田監督らしいドラマを楽しんでみてください。
1. 下町の太陽(1963年)
倍賞千恵子の同名のヒット曲をモチーフにした青春ドラマで、山田監督の長編2作目。ヒロインの町子は東京・下町の石鹸工場で工員をしている。同じ工場で事務職に就いている恋人は出世欲が強く、本社採用を目指して試験勉強に励んでいた。そんなある日、町子の中学生の弟が万引き事件を起こす。そんな彼を、鉄工所で働く青年がかばった。不良っぽくてガラは悪いが、性根は優しい青年に、町子はときめきを覚え……。昭和中期の東京、墨田区の下町の空気感をとらえながら、当時の庶民生活を生き生きと描写。キャリア初期の作品ながら、ヒロインと恋人とのやりとりにおける表情やしぐさのとらえ方に、山田監督らしい繊細な演出がよく表われている。
作品情報
公開(年):1963年
ジャンル :人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :倍賞千恵子、勝呂誉、早川保、田中晋二
上映時間 :86分
『下町の太陽』が公開された1960年代の松竹おすすめ映画はこちらの記事で詳しく紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
▼1960年代は名作邦画(日本映画)の宝庫!?昔を振り返る松竹作品15選
2. 馬鹿まるだし(1964年)
舞台は終戦直後、瀬戸内の小さな町。シベリアから帰還した流れ者、安五郎は寺に宿を借りたことが縁となり、この町に居つく。住職の長男の妻に一目ぼれしたのが、その主たる理由だったが、町の人々はこの風来坊をトラブル解決人として受け入れた。しかし、生来のヤクザ者である彼はトラブルメーカーでもあり、時として町の人々を困らせることも。そんなある日、誘拐犯が町の実力者の愛娘をさらい、ダイナマイトを武器に脅迫するという大事件が起こり……。山田洋次が自身の喜劇スタイルを築いたキャリア初期の秀作。安五郎役のハナ肇を筆頭に、彼率いるクレージーキャッツの面々が総出演し、笑いの見せ場を盛り立てる。安五郎像は、後に『男はつらいよ』シリーズの主人公のひな型となった。映画監督として初めて渥美清と組んだ作品でもある。
作品情報
公開(年):1964年
ジャンル :コメディ
監督 :山田洋次
キャスト :ハナ肇、三井弘次、渥美清、桑野みゆき
上映時間 :87分
3. 馬鹿が戦車でやってくる(1964年)
『馬鹿まるだし』『いいかげん馬鹿』に続いてハナ肇を主演に迎えたコメディだが、人情味重視の同作とは逆に、怒れる男の破天荒ぶりをフィーチャーしている。閉鎖的な農村地帯に、村人から蔑まれている一家があった。戦地帰りの息子サブは、耳の遠い母や口のきけない弟の世話をしながら、長者から分け与えられた小さな畑を耕して細々と暮らしている。そんなある日、長者の娘の病気が全快し、宴が開かれることになった。彼女から直々に招かれたサブもそこに向かうが、その姿は村人たちのさらなる嘲笑を買うことになり……。クライマックスでは怒ったサブが納屋に隠していた戦車で村を蹂躙。アナーキーな展開ゆえに山田監督の作品としては異質だが、社会の底辺で生きる者の立場に寄り添う姿勢ははっきりと見てとれる。
作品情報
公開(年):1964年
ジャンル :コメディ/人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :ハナ肇、谷啓、小沢昭一、岩下志麻
上映時間 :93分
4. 霧の旗(1965年)
山田洋次監督には珍しい本格派のサスペンス。野村芳太郎監督とのタッグで多くの名作を生んだ松本清張の小説の映画化で、昭和中期の東京の原風景をカメラに収めながら、生々しいスリルを映像に刻んだ。死刑判決を受けた兄の無罪を証明しようと、熊本から上京して一流弁護士を訪ねた若い女性、桐子。しかし弁護費用は高額で貧しい彼女には払えず、泣く泣く実家に戻るしかなかった。兄が獄中で病死した後、熊本にいられなくなった彼女は再び上京してバーのホステスとなる。その胸中には、すさまじい復讐の念が渦を巻いていた……。金がないものは裁判も受けられない、そんな現実を告発する姿勢に若き日の山田監督の意欲が感じ取れる。『男はつらいよ』シリーズの倍賞千恵子が主演を務めており、同作の人情味とは対極にある、情念の凄みを熱演した一作。
作品情報
公開(年):1965年
ジャンル :ミステリー・サスペンス
監督 :山田洋次
キャスト :倍賞千恵子、露口茂、滝沢修、新珠三千代
上映時間 :111分
5. 男はつらいよシリーズ(1969年~)
山田監督の代表作にして、国民的な人気喜劇シリーズ。1968年に山田監督が脚本・原案を務めた同名のTVシリーズが人気を博したことにより、主演の渥美清を引き続き起用して1969年より映画化がなされた。渥美の生前に作られた48作品と、以後の2作の全50作という数字は世界的に例を見ず、シリーズ映画のギネス記録となっている。テキヤ稼業で日本中を巡り歩いているフーテンの寅こと、車寅次郎。そんな彼が故郷の東京・柴又に戻ってきては、恋騒動を巻き起こす。シリーズ後期の42作目以降は、甥の満男に寅次郎が恋愛について指南するというパターンに変化していった。いずれも寅次郎とその家族のドタバタを描きながら、下町の人情を温かく浮かび上がらせた物語。作品ごとに変わるマドンナ女優も注目されていた。山田監督は、3、4作目では脚本のみで監督をしていないが、それ以外はすべての作品で演出を手がけている。
作品情報
公開(年):1969年~
ジャンル :コメディ
監督 :山田洋次
キャスト :渥美清、倍賞千恵子、前田吟、笠智衆
6. 家族(1970年)
『男はつらいよ』の一作目を手がけてヒットさせた後、山田監督の希望の企画として生み出された、家族の旅の物語。長崎県の伊王島に暮らす家族。貧しい生活に見切りをつけて、北海道で開拓地に入植することにした一家は桜咲く4月、島を後にして本土へ。祖父と父、母、子どもふたりの汽車の旅は続くが、東京に着いたとき、予期せぬ事件が起こる……。九州から本州を横断し、北海道へと向かう旅の模様を、山田監督はドキュメンタリーのような視点で淡々と描出。大阪での万博をはじめ、高度経済成長期の日本の景色を取り入れ、主人公たちの貧困と対比させた演出も絶妙だ。一家の母親、民子という役名は、同じ倍賞千恵子に『故郷』『遙かなる山の呼び声』でもあたえられ、これらは山田監督の“民子三部作”と呼ばれるようになった。
作品情報
公開(年):1970年
ジャンル :ロードムービー、人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :倍賞千恵子、井川比佐志、前田吟、渥美清、笠智衆
上映時間 :106分
7. 幸福の黄色いハンカチ(1977年)
第1回の日本アカデミー賞で作品賞など6部門を制し、国内の映画賞を独占した名作。失恋してヤケになり、車で旅に出た青年、欽也は北海道で同じく傷心旅行中のOL、朱美をナンパ。さらに、成り行きでワケありの中年男、勇作を車に乗せることになる。3人の旅は騒動の連続だったが、やがて勇作が服役を終えたばかりの身で、かつて住んでいた夕張に戻ろうとしていることが判明。夕張には妻が住んでいるが、今も彼を待っているのかはわからない。欽也と朱美は勇作を励まし、夕張へと向かい……。ユーモラスで人間味あふれるロードムービーをとおして、愛することの意味を問いかける。主演の高倉健はもちろん、当時若手だった武田鉄矢や桃井かおりの好演を引き出し、さまざまな世代の共感を呼ぶ人間ドラマとなった。
作品情報
公開(年):1977年
ジャンル :人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :高倉健、倍賞千恵子、武田鉄矢、桃井かおり
上映時間 :108分
日本の映画史に残る名作映画はこちらの記事でも詳しく紹介していますので、あわせて見てみてください。
▼傑作から話題作まで!名作邦画(日本映画)の松竹作品15選
8. 遙かなる山の呼び声(1980年)
『幸福の黄色いハンカチ』の高倉健と倍賞千恵子を再び迎え、同じ北海道を舞台にして描いた大人のラブストーリー。山田監督が愛する西部劇の名作『シェーン』をモチーフにして、同作へのオマージュを捧げる。ひとり息子を育てながら、女手ひとつで牧場を切り盛りしている民子の前に現われた旅の男、田島。彼は牧場で働かせてもらうことになり、息子は彼になついていく。民子もまた、仕事熱心で真面目な彼に思いを寄せるようになるが、田島には人には言えない過去があった……。自然の雄大な風景をバックにした詩情あふれる映像に、山田監督の才気が見て取れる。初期山田監督作品の常連であったハナ肇が久しぶりに出演を果たし、好助演でラストシーンの感動を引き立てている。
作品情報
公開(年):1980年
ジャンル :人間ドラマ、恋愛
監督 :山田洋次
キャスト :高倉健、倍賞千恵子、吉岡秀隆、鈴木瑞穂、ハナ肇
上映時間 :124分
9. 息子(1991年)
山田監督の作品としては2度目の日本アカデミー賞を受賞した名作。岩手の村に住む老人、昭男は子どもたちが巣立ったことにより、独りで農業を営んでいる。しかし次男の哲夫は東京でバイトを転々としながら、落ち着かない生活をおくっており、父を心配させていた。そんなある日、新しい職場の鉄工所の仕事で、彼は耳の不自由な女性事務員と知り合い、心を通わせていく……。離れて暮らす現代の家族の在りようを静かに見つめながら、味わい深いドラマを紡ぐ。昭男にふんした名優、三國連太郎はもちろん、当時若手として売り出し中だった永瀬正敏や和久井映見も、必要以上に言葉に頼ることなく、表情や素振りでキャラクターを体現して山田監督の演出に応えた。
作品情報
公開(年):1991年
ジャンル :人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :三國連太郎、永瀬正敏、和久井映見、原田美枝子
上映時間 :121分
10. 学校(1993年)
山田監督が15年間にわたって温め続けていた念願の企画を映画化。舞台は東京、下町にある夜間中学校。ここにはさまざまな年齢、境遇の人々が通っている。読み書きのできない初老の労働者や在日外国人、登校拒否の少女、不良少女、障がいを持つ者らが同じ教室に集い、それぞれの将来のために学びを続けていた。教師の黒井は、そんな彼らに親身になって接し、深く心を通わせていく……。教師と生徒、生徒と生徒の間に築かれていく信頼や友情が山田監督ならではの温かいまなざしで描かれ、感動を呼び起こす。国内の映画賞を独占し、山田監督作品3度目の日本アカデミー賞を受賞。好評を受け、キャラクターや設定を変えた続編が3作つくられた。
作品情報
公開(年):1993年
ジャンル :人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :西田敏行、竹下景子、萩原聖人、中江有里、裕木奈江、田中邦衛
上映時間 :128分
11. たそがれ清兵衛(2002年)
藤沢周平の小説の映画化で、山田監督にとっては初の時代劇。幕末の頃、庄内にたそがれ清兵衛と呼ばれる貧しい藩士がいた。妻に先立たれた彼は老母とふたりの娘を養うため、藩の仕事を終えるとまっすぐに帰宅し、内職に精を出している。生活のために刀は手放したが、剣の腕は藩内随一。ある日、そんな彼の前に、親友の妹で幼馴染の朋江が現われる。酒乱の夫と離縁して実家に戻ってきた彼女は、清兵衛の家を訪ねては家事を手伝う。そんなとき、藩主の逝去に端を発する後継者争いが勃発し、清兵衛もその渦に巻き込まれていく。山田監督は徹底した時代考証を行ない、当時の城や家屋、武士の着物や髷などを再現。庄内訛りにも気を配り、完璧な世界観を作り出した。日本アカデミー賞を受賞したほか、米国アカデミー賞でも外国語映画部門にノミネートを受けている。
作品情報
公開(年):2002年
ジャンル :時代劇、人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :真田広之、宮沢りえ、田中泯、丹波哲郎、岸惠子
上映時間 :129分
12. 母べえ(2008年)
戦時中の自身の体験を綴った、野上照代のノンフィクションをベースにした、ある家族の物語。東京に住む野上家は父と母、娘二人の4人家族。父を“父べえ”、母を “母べえ”と愛称で呼び合う仲睦まじい家族だった。ところが昭和15年、ドイツ文学者である父が政府批判を唱えたとの理由で、特高警察に逮捕される。戦争の影に日本中が覆われていく中、母べえと娘たちは苦難とともに過ごすことになる……。人々の善意に支えられ、ときに悪意にさらされながらも、厳しい時代を生き抜いた家族。生き方を曲げない母べえのたくましさや、思春期の娘たちの心の揺れがくっきりと描かれ、深い余韻を残す。平和への願いが込められた力作。
作品情報
公開(年):2008年
ジャンル :人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :吉永小百合、浅野忠信、檀れい、十代目坂東三津五郎、笑福亭鶴瓶
上映時間 :133分
13. 小さいおうち(2014年)
直木賞を受賞した中島京子の同名小説を映画化。昭和11年、山形から上京した女性タキは作家の家を経て、おもちゃ会社で働く平井の家の女中になる。平井の妻、時子やその息子との生活は穏やかなものだったが、やがて平井の会社に芸大卒の青年、板倉が入社。交流を通して時子の心は板倉へと傾いていき、時子はその事実を知ったことで苦しい立場に追い込まれ……。老いて世を去ったタキが遺した手記の内容を、甥っ子がたどるという回想形式で物語は進行。“長く生きすぎた”というタキの言葉の秘密に迫っていく。山田監督はキャラクターの心理をつぶさにとらえ、とりわけ女性たちの複雑な胸の内を繊細に描き出す。タキを演じた黒木華はベルリン国際映画祭で女優賞を受賞。
作品情報
公開(年):2014年
ジャンル :人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、倍賞千恵子
上映時間 :136分
14. 母と暮せば (2015年)
井上ひさしの戯曲『父と暮せば』と対を成す体で、山田監督が創作したファンタジー。舞台は終戦後の長崎。戦争によって夫や息子を亡くした助産婦の伸子は、原爆によって命を絶たれた次男、浩二がまだ生きているのではないか…という思いにとらわれていた。そんなある日、幽霊となった浩二が現われる。驚きの再会ではあったが、伸子はかなわないと思っていた浩二との交流を喜んだ。浩二は生前の恋人、町子に未練を残しており、伸子は息子の気持ちを察しつつも、諦めるように諭すのだが……。山田監督には珍しいファンタジーだが、ベースは戦後の混乱の中で必死に生きる庶民のドラマ。戦争によって壊れた人間の幸福の再生が、暖かいまなざしで描かれる。浩二役の二宮和也は日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。
作品情報
公開(年):2015年
ジャンル :人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :吉永小百合、二宮和也、黒木華、浅野忠信、加藤健一
上映時間 :130分
15. 家族はつらいよ(2016年)
『男はつらいよ』シリーズ以来、21年ぶりに山田監督が本格的な喜劇の世界に戻ってきた人気作品。定年退職して悠々自適の生活をおくっていた周造は、結婚50年目となる妻、富子に離婚を切り出されて大慌て。子どもたち夫婦も集まり、緊急家族会議が開かれることになる。ところが、その場でそれぞれが押し殺してきた本音が次々と明らかになったことから、事態は混迷していき……。セリフの軽妙なやりとりやテンポのよさは、まさに山田監督の名人芸。家族が腹を割って話すことの大切さを伝えるドラマも歯ごたえがあり、ハートウォーミングな後味を残す。続編『家族はつらいよ2』『妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ』とあわせて楽しみたい。
作品情報
公開(年):2016年
ジャンル :コメディ
監督 :山田洋次
キャスト :橋爪功、吉行和子、西村まさ彦、夏川結衣
上映時間 :108分
16. こんにちは、母さん(2023年)
『母べえ』『母と暮せば』に続く「母」三部作として、吉永小百合を主演に起用した集大成ともいえる作品。
時代とともに家族を描き続けてきた山田洋次監督が、本作では令和の世を生きる親と子の風景を活写。舞台は東京スカイツリーがそびえる下町、向島。大企業の人事部長としてリストラ業務に神経をすり減らし、家では妻との離婚に揺れている中年男が、母の暮らす実家に久しぶりに戻ってくる。一方、母は福祉活動で知り合った教会の牧師に恋をしている様子!?
下町の人々と助け合い、人生を楽しむ母と接するうちに、精神的に辛い仕事でストレスを溜め、人間関係をぎくしゃくさせている息子の心に変化が訪れる。
作品情報
公開(年):2023年
ジャンル :人間ドラマ
監督 :山田洋次
キャスト :吉永小百合、大泉洋、永野芽郁、田中泯、寺尾聰
上映時間 :110分
まとめ
山田洋次監督の作品は、つねに人と人とのつながりをじっくりと見つめています。奇をてらわず、あくまで人間の心情に寄り添う、その温かさこそが魅力。もちろん人間だから誤解もあり、衝突もありますが、それらをユーモラスな状況として描いている点は山田監督ならではの人間喜劇の妙とも言えるでしょう。山田洋次監督の秀作は本記事で紹介したものだけではありません。ほとんどの作品はブルーレイやDVDなどのソフト、動画配信サイトで見ることができます。気になる作品があれば、ぜひチェックしてみてください。
この記事を書いた人
相馬学
1966年、秋田県生まれ。情報誌の編集を経てフリーライターとなり30年。「SCREEN」「DVD&動画配信でーた」などの雑誌や劇場パンフレットなどの紙媒体、「シネマトゥデイ」「ぴあ映画生活」「CINEMORE」「Re:minder」などのインターネット媒体で取材記事やレビュー、コラムを執筆。
※おすすめ作品は松竹の担当者が選びました。